Story
46年目の夢のブドウ
46年目の夢のブドウ
なぜこのようなタイトルの“ブドウ”にしたか、これからお話いたします。
私は小学校1年生(6歳)の時に父を亡くしました。幼少の時の記憶では、父は田んぼの農薬散布の請負作業(61年前)を行っていたために、満足なマスクもないままその農薬の暴露を受け亡くなったと記憶しています。中学・高校生になるころから、将来 自分で栽培してお客様に販売する農作物は農薬・化学肥料を使用しない栽培をしていこうと決意しました。ある時、スーパーの陳列棚の最上段にブドウの化粧箱が飾ってあり、とても美味しく感じられました。(この時の思いがブドウを作るきっかけになりました) しかし極貧状態の生活環境では購入することはできません。そこで、お年玉で貯めたお金でブドウの苗を購入し自宅横の畑に植えました。教本はNHKの趣味の園芸のブドウ版です。その栽培方法とは、何月には何の病気予防のための農薬散布・何月には害虫駆除のための農薬散布と年間に発芽から落葉するまで何十回となく農薬散布をする方法です。現在の山口県の1年間の平均的な農薬散布は31回です。これは、発芽から落葉するまで一週間に1回散布する計算です。そのように実行すると確かに見栄えの良いブドウが出来ました。しかし、これでは農薬漬け状態です。実際に現在スーパー・百貨店等で販売されている果物・野菜などはほとんどがこれと同等です。
このような現実を実感したとき、将来的に自分で栽培するブドウは絶対に農薬を使用せずまた化学肥料も使用しないと決意しました。そこで、高校生ぐらいの時から無農薬でブドウを栽培する実験をスタートさせました。特に梅雨の長雨にかかると病気の発生が顕著になります。また、露地栽培では一年中害虫の被害を受けます。これらの教訓から、雨にかからず害虫の侵入を防ぐことができれば農薬の使用はある程度なくなるのではとの結論に至りました。
工業高校を卒業し地元に企業に就職して2年目の時(20歳)に高度成長時期を迎え、耕作していた私の田んぼが大規模な宅地開発の波に飲み込まれました。私は、先祖の土地をお金に替えることができないので代替え地を求めました。
それが今の亀の甲農園です。そこで、新しい土地で今まで実験してきた経験をいかして本格的なブドウ作りがスタートしました。昨年(66歳)頃から、見栄えの良いブドウができるようになったので“46年目の夢のブドウ”というネーミングをつけました。しかし、この46年間の間でクリアーしなければならない難題が山積していました。
第一に土壌作りです。交換した土地は固い粘土層だったので、深さ1.5mの穴を1,000㎡掘りバーク(原木の表皮・のこくず)を大型ダンプ200台以上投入しました。それを10年かけて大型のバックフォーで切り返し完熟発酵堆肥にしました。その後、大きな鉄骨構造(100×200mmのH鋼)で1,000㎡のハウスをつくりました。屋根は硬質フィルム(紫外線は透過)を張り、周囲は風通しのよいメッシュの網で囲いました。そして、いよいよブドウの苗を植える環境となりました。
ブドウが成長し棚に誘引できる状態となりましたが、春に伸びる新芽が5~10mも伸びますがブドウの房は貧弱でした。私は、房(実)を作らないで薪ばっかり作るので農園で幾度となく泣きました。しかし、泣いてばかりではいられません。
ブドウに関する本を何十冊と購入し熟読しましたが、解決する記述はありません。しかし、本の一部に関連する記述がありました。その選定方法を数年間実行していくと、ブドウの新芽が50~100cmで自然に止まり副梢もあまり出ない状態の割合が増えてきました。現時点での新芽は95%以上がそのような状態です。そのような新芽の状態になれば、葉で光合成した栄養が枝葉の成長に使われるのでなく実の成長に向けられるのです。ですから、立派な実をつけることが出来るのです。事実、本年度はとても立派な実がなっています。
次に解決しなければならないのが、病気の発生予防です。いくら環境を整え選定方法を整え栄養成長から生殖成長にもっていっても、病気の発生は抑えられません。私は、20年前頃から化学肥料に替わるよい発酵堆肥はないものかと試行錯誤していました。そして、5年前に竹の完熟発酵堆肥化システムを完成させました。この完熟発酵堆肥は竹を微生物で分解した有用微生物の塊です。これを昨年度ブドウ園に1,200kg散布しました。その結果、有用微生物群の地中・空気中での密度が高まり病気の発生はごくわずかに留まっています。
私は、2006年に農林水産省認定の有機JASを取得し現在まで14年連続取得中です。有機JASでも使用しても良い農薬がありますが、一切使用していません。そのため、えぐみ(苦味)が一切なくさらっとした食味です。
子供の前に容器いっぱいのブドウを入れておくと、無くなるまで食べます。
また、全国の化学物質過敏症の方々に宅配していますが、大変好評でリピータが多いいです。
半世紀以上の歳月を費やし、全国の皆様に召し上がって頂くブドウが昨年度頃から本格的に生産できるようになりましたので、ぜひご賞味ください。
2019年07月10日
亀の甲農園 代表 三 隅
忠 典